『アデル、ブルーは熱い色』−たくさん食べて、たくさん愛して−

                                   

あのスティーヴン・スピルバーグ監督に「偉大な愛の映画」と言わしめた『アデル、ブルーは熱い色』。
この映画は世界中で高く評価されて、凄まじい数の賞まで贈られていますが、ところがどっこい、騙されてはいけない!!
なぜならば全くもって甘くも、優しくもない。確かなことは凄く寂しくて乾いた映画だということ。

この物語は主人公であるアデルとエマのダブルヒロインを中心にして進行する一本道。その道筋には大きな盛り上がりは無い。ドンデン返しも無い平坦なものだけど、二人の私生活から心理描写まで、つまり彼女たちの人生を手間暇かけて丁寧に描いているわけです。その結果、上映時間は179分とかなり長め。
それでも上映会場は大入り、急遽パイプ椅子が用意された。過激な性描写が出るとあって本作はR18の称号を与えられており、それに吸い寄せられて集まったスケベ共が会場を占拠すると思いきや、意外と女性客が多くて驚いた。

しかし、179分という上映時間は正直きつかった。どんなに映画慣れしていても長時間椅子に座っているとお尻がジワリジワリと痛み出す。もたない!!お尻が!!
だからこそ言いたい。純粋にスケベ目的であったとしても、僕らはお尻を犠牲にする覚悟の上で会場入りしたんだ。ただのスケベにこんなマネができますか?

まぁ、それはそうと、主人公の一人であるアデルは食いしん坊で泣き虫、おまけに口が常に半開きでちょっとだらしない女子高生。
ある日、アデルは彼氏との待合場所に向かう途中に青いショートヘアの女の子とすれ違う。二度見どころではない喰い付きを示したアデルは、その日を境に謎の感情が心に芽生える。一瞬の出来事であったが、それは人生を変える出会いであった。
その後、アデルは彼氏とデートをしていても、セックス中であっても、頭の中は青い髪の女の子のことで一杯だった。彼氏は一緒にいても、心ここにあらずなアデルに不安を覚え「もしかして、僕のセックス駄目だった?」とセックスの評価を気にし出す始末。「そんなことないわ。」と凹む彼氏をなだめるも、アデルはあの子を想い続け、寝ながらオナニーしていた。彼氏に問題があるわけではない。でも何が問題なのか理解できないまま二人は破局を迎えてしまう。
アデルは傷ついた心を引きずりながらバーに立ち寄ると青い髪の女の子、エマが居た。再会の場は男と男が、女と女が互いの唇を重ねる、同性愛者たちの憩いの場であった。


いよいよ二人だけの時間が動き出すんですが、同時に波乱の幕開けでもあった。同性と付き合っていることがクラスメイトのブス共に知られ、好奇な視線と下品で心無い言葉の集中砲火がアデルに向けられた。切実な純愛なのに誰にも打ち明けられず、誰からも理解されなかったが、エマと居る時間だけは全てを忘れることが出来る。二人のデートは凄くかわいかったなぁ。アデルはどこに行っても何かしら口に入れてモグモグしているだけ。本当は凄くチューして欲しそうな顔してるのに!!
食欲が満たされれば性欲は無くなるなんて言いますが、ひょっとしたらアデルは同性に抱いた愛に罪悪感を覚え、それを抑え込むために無理してモグモグしていたのかもしれません。ただお腹が空いていただけかもしれませんが。
ある日、アデルは勇気を出して「女の子も食べてみたい。」とガーリーな性的アプローチをエマに試みる。こうしてアデルは念願であったエマとのセックスに辿り着く。


ここがこの映画の最大の見せ場なんですが、セックスがとにかく長い。1度始まったら休み無しで、ヘロヘロになるまで愛し合う。BGM一切無し。喘ぎ声、舐める音、お尻を叩く音が行為を際立たせるも、男性娯楽の追求を目指しているのとは違う。(『赤×ピンク』は男性娯楽を追求していたが。)
ひたすら互いの愛を確認し合い、喜びを与え合っているに過ぎない。いやらしさがそこには無いのだ。カメラが行為中の二人を舐めるように撮っているのも監督のこだわりなんでしょうね。性器と交通事故寸前の距離まで接近して撮影しちゃうんだから。ここまでやれば賞をあげるしかないが、さすがにそれはやり過ぎだと海外では議論を巻き起こした。実は性器そっくりの作り物を装着させていたそうです。ところが残念なことに日本上映では偽物なのにボカシが施されていた。本物でもないのに何で隠しちゃうんだろ。
バッカじゃないの?


寂しい時や哀しい時には体を重ねて慰め合ってきたアデルとエマが立派な大人に成長した姿が描かれる後半では、食事も愛も何もかもが冷め切ったものになっていた。僕はアデルが大好きだから後半はとにかく苦しくてね…。エマに出会わなければ、アデルはそれなりの幸せを手に入れていたのかもしれない…でも、そんな幸せをアデルは望んだりしないと思う。そんなことを考えると胸がまた苦しくなる。お尻も苦しかったけど。全編に渡って青色に染まったモノが登場するんですが、場面によって同じ青色でも違いが出てくるんですよ。
この上品な演出が胸を打つんだよなぁ…。