『クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん』

                               

昭和の時代から長きに渡って日本の男子たちは「ロボットが大好きだ!!」と絶叫してきた。この絶対的な魂の叫びとも取れるテーマをバカ、スケベ、そして心に沁みる熱い脚本を書くことに定評がある中島かずきさんの手に委ねた結果、今回のクレヨンしんちゃんはこれまでの作品とは一味も二味も違う天元突破な作品に仕上がった。
あと、このサブタイトルが良いですよね。「逆襲」って部分が。「メカゴジラの逆襲」、「逆襲のシャア」、「マシンロボ クロノスの大逆襲」…昔からタイトルに「逆襲」という言葉がドッキングしている作品にハズレ無し!!

とある日曜日。しんちゃんとひろしは近所の映画館で劇場版カンタムロボを鑑賞した帰り、親子そろって高ぶる感情を抑えきれずカンタムロボの合体ポーズを実践。そしてひろしの腰が悲鳴を上げた。病院に向かうも今日は日曜日。時間だけが無情に過ぎていく絶体絶命の最中、突如として現れた巨乳エステシャン。ひろしは何一つ迷うことなく彼女の経営する店に足を踏み入れる。
店を出るときには腰に痛みはスッカリ消え、小躍りしながら超高速ダッシュで帰宅。元気よく我が家に戻ると、みさえとひまわりの顔面は恐怖で引きつり、しんちゃんだけは目をクルクルさせながら歓喜した。何故ならば、野原ひろしの体は頭からつま先まで余すところなく超合金でビルドアップされたロボットになっていたのだ。アイアンマンの声を担当していた野原ひろしの体がアーマー化。それは声優好きならバカ正直に1度は夢見て、そして数秒後には消えた儚き妄想が実現した瞬間でもあった。

いや、夢など無い。あるのは悪夢だけだ。体はロボットだが心は野原ひろし…これは新ロボコップがこじらせた症状と同じで、自分であって自分ではない、人間とロボットの狭間をさ迷う生き地獄そのもの。それでも生きていくしかない。会社も休めない。生活費を稼ぐためにひろしは肛門から燃料を挿入して出勤する。「こんな体になっちまったが…何とかなるかもしれない。」と野原家に微かではあるが希望が見え始めた頃。ロボとーちゃんの体に異変が起きる。あろうことか愛する一家に乱暴狼藉を働き出したのだ。


ロボとーちゃんの体はある恐るべき指令が組み込まれていた。
それは今の日本から絶滅しかけている古風な頑固オヤジの復活を目的とした計画。嫁や子供からリスペクトされず、居場所すら奪われた肩身の狭いお父さんたちに「父よ、勇気で立ち上がれ」(通称「父ゆれ」)の思想で洗脳し、日本に亭主関白帝国を築き上げようとしていたのだ。
しんのすけの愛の力で謎の指令から解放されたロボとーちゃんであったが、そこへ本物の野原ひろしが現れる。ロボとーちゃんは野原ひろしの人格をコピーして移植した、ただのロボットであった。
体は機械だか心は野原ひろし、ロボだけどとーちゃん。とーちゃんだけどロボ…俺は一体。

かつてない程に濃厚なSF色と崩壊した春日部を舞台にした物語は途中まではしめやかだが、後半はダブルひろしとしんちゃんが親子水入らずの大合体で真の敵に打って出る逆襲編!! 中島かずき、お前って奴はっ!!
そして、僕らのハートが完全燃焼して炭になった頃に待ち受けている号泣エンディングは是非とも映画館で確認して頂きたい。