『スーサイド・ショップ』―自殺に魅入られし者たち―

     
        
                

前回、「死の恐怖に怯えながら闘う男」の姿を描いた映画『ウルヴァリン SAMURAI』を紹介した後にこの映画を紹介するのもなんですが…
今回紹介する映画『スーサイド・ショップ』は「自殺」を扱った映画です。
この映画は、けらえいこ先生の『あたしンち』に登場する立花家からポジティブな成分を全部吸い取って、空いた部分にネガティブな成分した注入したような超ダークサイド家族が人様の死にざまを歌って踊って紡ぎ出す、ティム・バートンをも超える猛毒ミュージカルです。
物凄く残酷なお話なのに絵は華やかで、さほど重く感じないのは何歳になっても恋に生きるフランス人が描いたからかもしれませんね。

灰色の空の下にそびえたつ薄暗い街。老いも若きも男も女も鳩ポッポも、この街に住む者たちは皆と疲れ切っていた。どこまでも続く苦痛と絶望から逃れるため街の人々は競うように尊い命をポイ捨てる。
日々繰り広げられる自発的大虐殺に政府は「自殺」を違法と定めたが、それでも人々は自殺を心の拠り所としていた。
そんな帰り道を失った人々に救いの手を差し伸べていたのが、トゥヴァシュ一家が経営する『自殺用品専門店』であった。

店長ミシマ、その妻ルクレス。長女のマリリンに長男ヴァンサン。
(家族の名前がいちいち自殺有名人という制作側の志の高さが伝わって来ますね。)
一般の客にはお値打ちな首吊り縄、セレブには香水瓶に入ったオシャレで高品質な毒ガス、ホームレスにはタダで窒息用のビニール袋を、余念の無いおもてなしで大盛況なこのお店に大事件が起きる。
ミシマとルクレスの間に誕生した赤ちゃん、アランが超ポジティブだったのだ。

ネガティブな家族は、この突現変異ともいえるアランに拒絶反応を示すのです。特にミシマ店長の拒絶反応は凄まじく、人が見ていないところでアランを手加減なくボコボコに可愛がり、「タバコは吸えば吸うほど体に良い!!」とそそのかして早死にさせようとチャレンジする、その鬼気迫る表情はもはや父親ではなかった。
だが、この狂気を帯びた一家も心を持った人間。人様の人生に無理矢理ピリオドを打つこの仕事に巨大な罪悪感を抱いており、気が少しでも緩めば大粒の涙を流す彼らもまた「自殺」による解放を夢見ていた。
「じゃあ、今すぐそんな仕事辞めろよ!」と思うかもしれないが、実はこの仕事は何代も続く由緒ある家業で「我々が自殺したら一体どうなる? 誰が人様に自殺を提供できるというのか?」と暴走したプライドと経営理念が呪縛となっていたのだ。アランは「自殺」ではなく「優しさ」で大好きな家族とこの街を救おうと大奮闘。ネガティブな家族はドンドン生きる事への素晴らしさに目覚めて立花家になっていくのに対し、いつまでも家業にこだわるミシマ店長は日本刀を握りしめ、ある決断を迫られる。

特筆すべきは長女のマリリンである。
アランが自分のお小遣いを全額使って購入した薄桃色のスカーフが誕生日を迎えたマリリンに贈られた時、彼女の心に温かい何かが芽生える。その晩、マリリンは自分の部屋で素っ裸にスカーフ1枚という画期的過ぎる姿で踊り始めると、今まで「自分はブスだから…」と嫌悪していた抱き枕体型が実はふくよかで美しい体であることに気付く。初めて自分を受け入れることができた彼女の見る世界はもはや別世界。未知の高みに到達したマリリンはスカーフを装着してシャボン玉を店内でバカスカ飛ばして、沈んだドン底家族の心に幸せをお裾分けするシーンは観ているこちらも幸福な気分になりますよ。
時代は裸スカーフ!! 幸せはその先にある!! 僕の言っていることはひょっとしたら間違いかもしれませんが、世の中は甘くないし、いつだって向かい風ですからね。だからこそ男も女の子もいつでも裸スカーフになれるくらいの度胸がなきゃ幸せは掴めないってことですよ。                      


             
                                                    またね。