『ある会社員』―愛をおぼえた獣は儚く美しい―


漆黒のスーツに身を固めたイケメンが人を殺しながら囚われの少女を救い出す傑作韓国映画『アジョシ』に引き続き、韓国が我が国に送り込んだ韓流バイオレンス『ある会社員』。
地味な邦題だが、内容はけっこうカオスです。


表向きは金属を扱った会社NCM。ところがどっこい、その正体は人も知らず世も知らず、漆黒のスーツ姿に殺人スキルを忍ばせた社員が人殺しを請負い、無断欠勤の社員も殺すという、ひ弱な草食系男子でなくとも初日から心が折れること間違いなしのブラックを通り越した、二足のわらじを履く漆黒中小企業であった。
この物語の主人公チ・ヒョンド(ソ・ジソブ)はNCMに勤めて10年。どんなミッションも確実にこなし、部下や上司からも信頼される仕事熱心な課長である。

ある日、ヒョンドはNCMにアルバイトとして入社したフンのお母ちゃんが少年時代から大ファンだった歌手ユ・ミヨンであることを知ってしまったから、
さあ大変。今まで人を殺すことでしか自分を表現できなかったターミネーター
みたいなヒョンドが、憧れの女性との出会いを起爆剤にして人間的な感情が蘇り、いきなりオシャレに目覚め、後始末を部下に押し付けて全速力でミヨンに会いに行く姿は実に微笑ましい。
ミヨンの奏でるギターの音色に乗せて二人の関係は親密になっていくのだが、これは号泣韓国映画『私のオオカミ少年』同様、荒んだ男子のハートを癒す特効薬は美女の奏でるギターの音色なのだ。ギターは女の子のマストアイテム!! 多分。
その特効薬が効きすぎた結果、ヒョンドの社内での評価は急降下していく。
つまり、『装甲騎兵ボトムズ』のキリコ・キュービィーが『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイに恋をしてトロトロになった状態なわけですね。まぁ正直言って、この例えは無理がありすぎますが。

あろうことか、身も心も返り血で真っ赤に染めてきた人殺し一筋のヒョンドは「とっとと足を洗って、残りの人生は彼女と一緒にカフェを経営しよう。」と虫が良すぎる将来の幸せを勝手に願い始めるも、会社側はその幸せを決して許さない。NCMの厳しい経営理念に基き、彼は解雇を言い渡される。
それはすなわち、同僚たちから一斉に命を狙われると言う意味であった。凄い会社である。



↑こうして始まったデスマッチ解雇。ソ代理の繰り出す鋭いナイフ攻撃がヒョンドを襲う!一度味わってみたいものです





そして会社の魔の手は遂に無関係のミヨンにも、というより一方的にヒョンドが巻き込んだんですが。
何もかもが悪い方向へ向かい始めた時、覚悟を決めたヒョンドは逃げることをやめてファイナル出勤の支度を始める。イ・ビョンホンの『甘い人生』的なムード全開で「俺はもう、こんな仕事したくないんだよ!!」の一点張りでNCMに乗り込んで機関銃、体術、そして丸めたカレンダーを駆使して社内で大量解雇を巻き起こすクライマックスでは、さっきまでデスクワークをしていたOLやサラリーマンがいきなり拳銃や機関銃を手に取り大暴れする、世にも不思議な銃撃戦に燃えるべきか爆笑すべきか、正直、困りました。