『ポンペイ』−空と地を真っ赤に染めて−

 この物語は火山の大噴火によって引き裂かれた恋人たちの悲劇である。
西暦62年。お風呂よりも血に飢えたローマ軍によって両親と一族を皆殺しにされた少年マイロ。生き残ったものの「これから僕、どうなっちゃうんだろう…。」と路頭に迷っていると、人さらいに遭ってそのまま奴隷としての第二の人生が幕を開ける。
 時は流れて西暦79年。子犬のように怯え切っていた少年マイロは座頭市レベルの戦闘力を誇る奴隷剣闘士に成長し、見世物試合で血と注目を一身に浴びていた。だが、どんなに称賛されようとも男の傷ついた心は元には戻らなかった。
 その頃、古代都市ポンペイでは巨大な計画が動き始め、同時に強い剣闘士を求む求人広告も出ていた。そこで、これだけの人殺しができるのにドサ周り営業で終わるのは惜しい!!お前も来い!!とマイロにも声が掛かる。そこへ向かう道中で彼は重傷を負った馬により立往生している馬車と遭遇。馬車に乗っていたお姫様カッシアの手を借りて、マイロは苦しむ馬の首の骨をへし折って介錯する。
見つめ合う円らな二人の瞳。言葉などもはや無用。二人は馬の死体の上で恋に落ちたのだ。 大都市ポンペイに転校しきたマイロ。転校生を待ち受けていたのは飯を食べる時間をも喧嘩の費やすような学級崩壊同然の環境と男前なマイロを気に喰わないブサイク奴隷たちによる嫌がらせ。強要されるセレブ共(ババァ)の夜の相手(チンコは有料)。そんな敵だらけの中、ただ一人マイロに鋭い視線を送っていたのは最強の黒人奴隷剣闘士アティカスだった。漆黒の体から滲み出る男らしい佇まいとカリスマ性。そしてアティカスもまた家族をローマ軍に殺されたという他人事とは思えぬ境遇に共感したマイロはアティカスを、そしてアティカスもまたマイロを、戦友(お友達)として認め合う。それはポンペイ中の腐女子をも白熱させるような最強の白黒コンビ爆誕したことを意味していた。

ここまで出てくるのは裸の男ばかりなので、もしかしてヒロインはアティカスなのでは?と錯覚を起こすかもしれませんが、ヒロインはカッシア姫なのでね。姫を演じたのが何とエミリー・ブラウニングであることも非常に重要!!
ここでちょっとエミリーの履歴を見直して頂きたい。彼女がこれまで演じてきた役は主にオバケ、精神病院から出戻ってきた問題児、エロ目的の老人たちに奉仕する役、セーラー服美少女戦士なコスプレでサムライ、ゾンビ、ドラゴン、ロボットと死闘を繰り広げるスーパーカオスなヒロイン。つまり人並みの幸せからかなり遠い役ばかり。そんな彼女が今回演じるのは、やっぱり不幸な役でした。
 裕福な家庭に生まれたお姫様であるものの、権力持ちのローマ人からの脅迫に限りなく近い求婚アタックに頭を抱えて困っていたら、火山が大噴火。押し寄せる炎でエミリーのドレスはボロボロ、顔は真っ黒。
その姿はもはやお姫様ではなくホームレスだった。



↑下痢のように流れ込んでくる炎がエミリーに襲いかかる!!

 この映画の見どころは火山の大噴火のように思うかもしれませんが、火山なんてただの背景であって、真の見所はピュアな愛ですよ!!
例えば、ある晩、マイロは夜の相手を品定めするセレブを前にした途端に急にオドオドし始める。マイロが童貞であることを暗示させる場面なんですが、しかも童貞を捧げる相手がババァだなんて悪夢。そこへ偶然、カッシア姫がやってきて気まずい雰囲気に。
彼女は「ここで私が彼を買ったら独り占めできる…でも買うだなんて!! はしたない女と思われたらどうしよう…。」と思ったんでしょうね…多分。
強烈に引き寄せ合い始める二人の初々しくも無様な恋愛模様は、思わず応援してあげたくなること間違いなし。
 あと、カッシア姫は人前で弱さを見せていないのに、何故だか弱々しく、そして具合が悪そうに見えてくる。これはエミリーが持つ不幸に成れば成る程、輝きを増す薄幸顔が謎の説得力を生み出しているんでしょうね。だからこそ、マイロも僕らも彼女を守ってあげたい。守りたい。守らせろ!!と絶叫したくなるんです。

 で、やっぱり火山の大噴火も見所だと思うんですよ。この世の地獄と化した街でマイロは、両親を殺し人生を奪った仇敵と再会し、火事場泥棒ならぬ火事場復讐を開始する。白馬に乗ったマイロが燃える街を突っ切るシーンは、ローンレンジャーを彷彿とさせるカッコよさ!! そしてエミリーは敵の人質に。彼女は本当に自分の使いどころを熟知していますよね。こんなにもカッコよくて、愛くるしい作品なのに海外での評価はイマイチな結果に。みんな三流恋愛映画とでも言いたいのか?
 

今回もエミリーは底無しに哀しい小娘役でしたが、彼女は不幸な役じゃなくても十分魅力的なので、いつか笑顔を見せてくれるような役も演じて欲しいなぁ。それにエミリーって名前は何となく「笑み」って言葉に似てるじゃないです?
無理を言っているのは百も承知ですが、それが今の僕の気持ちです。