『チョコレートドーナツ』

                                  
時は1979年のカリフォルニア。
金も学歴も無いけれどなんのその。歌うことが大好きなゲイ・バーの看板男のルディとゲイの弁護士ポールは出会った瞬間、恋に落ちた。
いい男に出会えた喜びを噛み締めてルディがアパートに戻ると隣人が音楽を爆音でかけていた。
しかもその音は一晩中続き、我慢の臨界点を突破したルディはパンティー1丁で男らしく部屋に怒鳴り込むとそこには幼い子供が一人、荒れた部屋の片隅でうずくまっていた。

部屋に取り残されていた子供の名前はマルコ。ダウン症を患う男の子だった。
母親はマルコを愛していなかった。それに加えて性格がブスで薬物をも貪る罪深きクソママ。昨夜はマルコを強制留守番させ、近所の薬友と出かけて帰って来ないと思ったらそのまま薬物所持で逮捕されてブタ箱送り。にっちもさっちもいかない極悪な家庭環境を目の当たりにしたルディはマルコを救うため立ち上がる。が、金が無い!! 今の彼は家賃だってまともに払えない危機的経済状況。つまり、なーんにも出来ない状態だったのだ。

金が無くても行動は起こせる! 持つべきものは弁護士だ!! ポールなら何とかしてくれるかも!!!と助言を求めて彼の職場に足を運ぶも「施設に入れるべきだ。」とあしらわれてしまう。結局、家庭局の職員がズカズカとやって来てマルコを施設に送り届けてしまう。マルコの着替えをゴミ袋に押し込んで運び出す職員の横暴な振る舞い。人を人とも思わぬ態度を目の前にしても、何もしてあげられない自分に憤りを感じるルディだった。



後日、ポールはルディに謝るため再びバーに訪れる。傷心を癒すように2人は互いの過去を語り出す。
ルディはゲイであることを公表したら人生が下り坂になったと面白おかしく語り出すも、未だカミングアウトしていないポールにとっては血の気の引く話であった。

同じ人間なのに長きに渡って差別され傷つけられてきたルディだからこそ、マルコの苦しみを誰よりも理解できたんだ。
だけど、気づいてあげられない周囲の人間は何なんだろ? と嫌でも思わされるシーンがこの映画には何度も登場する。


施設から脱走して来たマルコと偶然再会したルディとポールは3人で家族になることを決意するも、予期せぬ形でポールとルディの関係が表ざたとなりポールは職を奪われ、マルコは再び施設に送られてしまう。どこまでも付きまとう差別と偏見に真正面から立ち向かい、マルコを取り戻すため2人は裁判に挑む。マルコのことを話し合う場であるはずの法廷はいつの間にか議題を2人の関係に変えて、よってたがって同性愛をコケにし始める始末。
ゲイは悪者だと決めつけるだけの裁判。人の幸せを奪う法律。
それでも闘い続ける2人の姿に涙が止まらなかった。館内のいたる所から鼻をグズグズさせる音がした。
上映が終わり、部屋が明るくなっても実話から作られた映画と思うと沈んだ気持ちは晴れなかった。