『赤×ピンク』−ドラ猫たちの愛武−

                              

映画館に着くと男たちがチケット売り場から連なって長い列を作っていた。
「まさか…。」と思ったら、やっぱり彼らの目的は『赤×ピンク』だった。しかも、列があんまりにも長いから、売り場の人が出て来てデカい声で「『赤×ピンク』のお客さんはこっちに並んで! あっ、あなたも『赤×ピンク』ですか? こちらへどうぞ!!」って交通整理を始めたもんだから余計に目立っちゃってね。
映画の内容を知らない女性客も、男だらけの列を目の当たりにして直感的にエロ映画だと気づいたんでしょうね。ノラ犬を見るような冷めた視線を僕たちに向けていた。「そんな目で見るな!!僕だって客だぞ!!」と叫びたかったけど、今回は純粋にスケベ目的で観に来ていたので反論の余地は無い。甘んじて辱めに耐えた。耐えに耐えてチケット買って上映会場に入ると、結婚どころか彼女すらいないようなブサイクな同胞たちが席取りに精を出していた。もうね。超大作ばっかり流している大きな映画館にしか入ったことのない方には絶対理解できないような、息苦しくて、臭くて、湿気に満ちた、それはそれは汚い空間だったんですよ。

『赤×ピンク』という映画は、暴力賛成女子たちが紡ぎ出す男子禁制な荒削り青春物語なんですが、上映開始早々に僕の心は殴り倒された。
物語は主人公である皐月(芳賀 優里亜)の目覚めから始まるんですが、普通の青春映画のヒロインだったら「う、うう〜ん!!」とかわいく背伸びをして朝のスタートを爽やかに切るところですが、皐月は違うんです。
ベッドから降りると下着姿のまま空手を始めちゃうんです。踏ん張ってキレのある正拳突きをバシバシ披露するんですよ。
かつて、これほどまでに力強い寝起きを披露した女の子がスクリーンに映し出されたことがあっただろうか? 僕はこういう女の子が大好きなんですよ。
目が覚めたら隣で寝ていたはずの女の子が「フン!!フン!!」と言いながら正拳突きしていたら、あるいはカーテンと窓を開けて、お隣の幼なじみの女の子に挨拶しようとしたら「フン!!フン!!」みたいな。
朝から汗臭いかもしれませんが、かわいいから気になりませんよ!! それでも臭かったら制汗スプレーをかけてあげればいいんです。
まぁ、それはそうと、冒頭から掴みは最高な本作は『伏 鉄砲娘の捕物帳』(12)の原作者でもある桜庭一樹先生が2003年に発表された同名の小説が原作ですが、僕は原作読んでないのでデカいことは言えませんが凄く面白かった!! 美少女×暴力という絶対に面白くなる組み合わせに加え、同性同士の色恋沙汰があなたの胸をズドンと打ち抜きますよ。

舞台となるのは廃校になった小学校の地下で夜な夜な開催される非公式ファイト・クラブ
女の子たちは巨大な鳥カゴの中で壮絶なキャットファイトを繰り広げ、見返りに送られるのは客からの視線と声援。それだけが彼女たちの生きがい。 キャットファイトと言えば女の子同士がお互いの髪の毛を引っ張ったり、爪で引っ掻いたりする山猿の喧嘩のようなものを想像するかもしれませんが、それとは全く次元が違う。
手加減は校則違反だと言わんばかりにとにかく殴る!蹴る!ひん曲げる!! アクション大洪水!!
つまり草食男子程度なら5秒以内に殺せるわけだが、そんなドラ猫たちも一度鳥カゴから出れば物腰が柔らかい無害な子猫に姿を変えてじゃれ合うのだ。
そんなある日、ぶらりと入団してきた謎の美しき人妻 千夏(多田あさみ)。皐月たちをドラ猫と呼ぶのなら、千夏は『おしゃれキャット』(70)のダッチェスの皮を被った猛虎です。上品な佇まいとムチムチなボディ、そのうえ伝説の空手家の娘。しかも千夏は金属バットで頭を殴られても死なない凄い石頭の持ち主。
ここまで強いともう爆弾ですよ。千夏は猛虎とダッチェスの皮を被った爆弾です!!


皐月は千夏と初めて拳を交えた日から体がずーっと火照りっぱなし。そうなんです。皐月は千夏に恋をしたんです。皐月は性同一性障害を抱えていたのだ。
こうして女と女の中の男の子(童貞)の交際が始まり、惹かれ合う二人は一夜を共にするような深い関係にまで発展していく。常に強気な皐月も千夏の前ではゴロニャンゴロニャンしちゃう姿がすっごくかわいくてね 。
寝起きの千夏にチューをする皐月。かつて寝起きは正拳突きだった頃の姿はもうどこにも無かった。


ところが二人の前に空手とDVを自在に操る千夏の夫 安藤が現れて事態は急変。安藤は二人の幸せを粉々にするだけでなく、彼女たちの居場所であるファイトクラブを営業停止に追い込んでしまう。連れ去られた千夏と居場所を奪い返すため、仲間と共に立ち上がった皐月は叫ぶ「千夏、俺の女になれ!!」と。
スケベ目的で観に来たはずなのに最後は頬を伝って涙がポロポロとこぼれ落ち、心に染み渡る幸福感。

この映画は大傑作であると同時に大金を積まなくても体と情熱さえあれば、日本はハリウッドと張り合えるアクション映画が撮れると証明した記念樹的な1本だよ。本当に本当に素晴らしい映画でした!!
そして何よりもオッパイだけでなく、他のモノも丸出しにしたうえに過酷なアクションにまで挑戦した勇気ある女優さんたちに愛を込めて感謝したい。ありがとう!!