『ローン・サバイバー』−兄弟たちと共に生きていく−

                               

たった数名のアメリカ軍兵士が大暴れして、大人数の敵兵を大無双…そんなアクション戦争映画、今まで何本観てきたことか。
どんなに死人が出ようが、この手の映画には悲壮感など無い。だって現実に起きたことじゃないんだからね。
自宅に帰ったら映画の内容なんてほとんど忘れているよ。
でも今回は違います。今でも鮮明に覚えています。これから紹介する『ローン・サバイバー』は4人のアメリカ兵士対タリバン兵士200人とこれまた作り話のような内容ですが全部実話
現実に起きた大惨事です。
2005年にアメリカの特殊部隊ネイビー・シールズアフガニスタンに4名の兵士を潜入させた。彼らに与えられたミッションはビンラディンの側近であるアフマド・シャーの捕捉あるいは殺害。この作戦は「レッド・ウイング作戦」と呼ばれ、同時にネイビー・シールズ史上最大の悲劇とも言われている大事件。

映画の冒頭で実際に撮影されたネイビー・シールズの入隊試験の映像が出てくるんですが、これがとにかく人でなし。
何も知らないヒヨッ子たちは、いきなり手足を縛られ深いプールにドボン!! 人殺し同然なシゴキに目を回すヒヨッ子たち。耐え切れず実家に帰っていくヒヨッ子たち。連日の生き地獄を耐え抜いた一握りのヒヨッ子だけがネイビー・シールズになることが許されるのだ。ネイビー・シールズの最大の武器は叩き上げられた肉体とメンタルである。レッド・ウイング作戦に参加した4人は頭以外の部分に何発銃弾をブチ撃ち込まれようが、指が千切れようが骨が突き出ようが歩き続けるしぶとさを見せてくれます。撃たれた程度の傷なら砂を詰めて止血しちゃうんだから。
そして、ネイビー・シールズと言えば2011年に侵略目的で地球に飛来したディセプティコンと戦ってオートボット以上の戦果を挙げたことも記憶に新しい。
今こうして地球が平和なのはネイビー・シールズのおかげなのだ。

ここからが映画の内容です。
作戦行動中に4人のシールズ隊員はヤギと散歩する3名の現地人と鉢合わせしてしまう。
3人を拘束するも問題はそれで解決したわけではない。作戦を遂行するために目撃者たちを殺すのか?
敵国の人間とは言え相手は民間人。しかも3人のうち1人は幼い子供。
あるいは通報されること覚悟で彼らを解放するのか?
ここで怖ろしいのは、銃を持った大人たちが目の前で怒鳴り合っているのに子供は泣いていないし、命乞いもしていない。ただ黙ってシールズ隊員を威嚇しているだけ。この国の子供は、子供ではなくなっているんです
この子役の顔がおっかないから余計に怖くてね。結局、シールズ隊員は彼らを解放。そして通報されてしまう。



こうして猛追撃してきた200人のタリバン兵による人間狩りが始まった。
ここから終盤までひたすら銃撃戦が続くのですが、この戦い最大の恐怖は飛び交う銃弾やロケット弾ではなく、ここが山岳地帯であること。地面からは角張った大きな岩が剥き出しになっていて、ちょっと転んだだけでも膝がえぐれてしまう。必要に迫られて高い崖を飛び降りれば、待っているのは尖った岩肌。全身を岩に殴られ、壊れた人形のように体を変形させながら転がる隊員たちを受け止めてくれるのも岩か大木。
しかもここら一帯は電波の状態が非常に悪く、無線で助けを呼ぼうにも基地に連絡できない。
部下が死にかけているのに基地ではバカ指揮官が部屋でグースカ眠りこける始末。何もかもが手遅れの中、仲間がドンドン死んでいく。
どこまでも転げ落ちて、最後の1人となったシールズ隊員の体はグチャグチャ。彼こそがタイトルにもなっている「ローン・サバイバー」(たった一人の生存者)なんだけど、この状態からどうやって生き延びることが出来たのかは劇場で確認して頂きたい。
観たらきっと、これは戦争映画じゃないと気づきますよ。
戦争を始めるには理由がいる。だけど人を救うことに理由なんていらないんだ。