『魔女の宅急便』−実写版『魔女の宅急便』の良さ教えます!!− その1

                            

真っ黒いエキゾチックな洋服に真っ黒いネコ、ホウキ一本で青空を縦横無尽に飛び回る少しお転婆な小娘。
1985年に誕生して以来、夢と希望と勇気を今なお配達し続けている国民的不朽の名作『魔女の宅急便』の実写版。
僕はジブリ版しか観たことないのですが……。
それでもハッキリと言えるのは、実写版『魔女の宅急便』は控えめなファンタジーにちょっと苦みのある青春を足して、隠し味にカボチャ・パンティーを加え、とろ火で煮詰めて誕生した心優しい物語です。

自然が溢れた田舎ではなく切り立った断崖絶壁に住む実写版キキ(小芝風花)は13歳の満月の夜に独り立ちの時期を迎えた。
キキと相棒の黒猫のジジ(声は寿美菜子さん)は、「魔女のいない町で1年間生活しなければならない」という厳しい掟に従って、見知らぬ街を目指して夜空高く舞い上がり、元気よく発進!!
風に乗ってキキとジジが辿り着いたのは、洋風な街並みがどこまでも続く島ではなく、潮の香りと場末感が漂う港町コリコだった。

開始早々に過去の『魔女の宅急便』が築き上げたイメージをパーにするような渋い展開の連打には、過去にさよならを告げて、全く新しい『魔女の宅急便』誕生の意味が込められています。古い原作に現代的な解釈を擦りこんでアップ・グレードさせようという安易な考えではなく、監督の清水 崇は童話と決別して、実写だからこそできる、現実味を帯びた生の『魔女の宅急便を目指したとのこと。なので『魔女の宅急便』未経験な方も、強烈なジブリ信者の方も、先ずはご鑑賞下さい。真価は鑑賞後に見えてきますから。


こちらが、生を追及して誕生した新しいキキ。生キキです。
魔女の宅急便』が大好きな方なら違いは一目瞭然。キキのトレードマークである大きなリボンがパイルダー・オンしていない。個人的にはトレードマーク廃止という勇気ある決断は、コスプレ防止に繋がり、実写的に合格したと思う。黒一色だった洋服には新たに赤い刺繍が施され、ホウキには飛行時にお尻を痛めないようにクッションが巻かれていたりとガーリーかつ生活に役立つ追加要素も悪くないと思います。髪型は一見するとジブリ版を意識したようなショートヘアーですが、これは「野性児」を意識したものです。生キキは崖で原始人みたいな生活をしていましたからね。
そんな小娘がトリートメントの効いた髪を持っているはずない!!
その結果、原作版とジブリ版、偉大な二作のルックスから解放された生キキの姿は、もはや魔女ではなくかわいい山猿の赤ちゃんだった。

生キキは嬉しければ声を上げて笑い、ある事件がきっかけで運送業が営業停止に追い込まれて無職になった時は泣き崩れて自分を見失い、自暴自棄になって商売道具のホウキに「掃除道具にしてやるぞ!!」と怒鳴って八つ当たりもした。それでも時折、見せる母性的な優しさとド根性。
喜怒哀楽が大忙しで大変だけど、僕はこの部分が大好きだ。
特別な力を持った魔女でありながらも、心も体も傷つく普通の少女。生キキは荒削りなようで繊細な宝石、小粒だけど酸味の強い木苺!!
この境地に達した時、清水監督のビジョンを共有したよう気分になってくる。

もちろん、凄いのは監督だけじゃない。最大の功労者はキキになった風花ちゃんだよ
魔女の宅急便』最大の見せ場である飛行シーンの多くはCGではなく実写でね。ホウキにまたがった姿勢をキープしながら15メートルの高さまで引っ張り上げられ、カボチャ・パンティーと太ももを剥き出しにして恐怖と辱めを耐え抜いた彼女の姿をバカにする資格は、誰にも無いよ!!