『鑑定士と顔のない依頼人』―偽りの愛に埋もれた童貞―

                                    
                    二次元の女性にしか心を開けない孤独な童貞ジジイと引きこもり美女。
        似たもの同士の心は互いを求め、舐め合った心の傷は癒えずに深みを増して広がっていく。

                      

映画の内容に触れる前に、先にこの物語の主人公ヴァージル・オールドマンについて語りたい。彼の職業は鑑定士。志が高く仕事熱心で紳士的な振る舞いを崩さない男の姿を誰もが尊敬した。だが、そんな完璧な男にはもう一つの顔が、それは絵画を収集するコレクターとしての顔である。実はこの男、女性が大の苦手で、その苦手意識は恐怖に似た感情となって長年彼を苦しめていたのだ。女性を前にした途端、目を合わすこともできないオールドマン。だが、彼だって男の子の端くれ、ホモではないので当然、女の子に興味はある。三次元は苦手でも二次元なら問題無いと美女が描かれた絵画を一心不乱に、ときには汚い手段を使ってでも集めた。
美女を収めた絵画は彼の自宅の秘密部屋に飾られ、壁中を隙間なく埋め尽くす自分好みの二次元美女たちの視線を独り占めすることが、この男の至福の瞬間と言っても過言ではない。この狂気を帯びた収集癖が熟成された童貞の怪物を生み出したのだ。学校やバイト先でモテモテの男子には彼の世界は理解できないかもしれないが、僕には痛いほどよくわかったよ…。

僕もね、夜中に立ち寄ったコンビニのエロ本コーナーで表紙を飾る理想の娘と目が合った瞬間「ドキッ!!」。この一期一会を逃すまいと出会った本を手に取り、勇気を出してレジへ向かった過去を持っていますからね。購入後「僕だってやればできるんだ!! でも、もうこのコンビニは利用できない…。」そんな興奮と罪悪感が入り混じった感覚を彼も感じていたはず。モテモテ男子には分かるまい!!

そんな立派な童貞歴を順調に更新中のオールドマンの事務所に鑑定を求める一本の電話が舞い込む。クレア・イベットソンと名乗る女性からの依頼だった。三次元に生きる女性に興味はないが、まだ見ぬ骨董品の甘美な香りに誘われたオールドマンはクレアの住む屋敷へ辿り着くも、依頼人のクレアは一行に姿を見せなかった。
再びクレア邸に訪れると大きな壁越しに語りかけてくる謎の声がオールドマンを困惑させた。壁越しに語りかけてくる声の主こそがクレアだったのだ。

彼女は広場恐怖症を患っており、「15歳から外の世界を知らない」と告白。当初は仕事のためにクレアと壁越しに面会を続けていたオールドマンであったが、クレアに自分と同じ日陰者の魂を感じ始め、彼の同情は好奇心に、好奇心は強烈な恋に昇格していき、仕事もろくにしないでクレアとの面会の回数は日に日に増え、いつしかオールドマンは精神科医でもないくせに「彼女のハートの病の特効薬は僕だ!!」とあの手この手で心に沁みるアプローチを開始する。
僕を含めた世界中の童貞映画男子が鼻息を荒くして「負けるなジジイ! 諦めるな!!」と親身になって声援を乱れ撃ちした瞬間でもあるの。だけど物語は後半に進むと、観客(特に童貞)のピュアなハートを殴り殺すような、例えるなら新海 誠監督の作品を一気観したような激痛が雪崩込んでくる。この監督は童貞に何か恨みでもあるんですかね?
残酷な物語だけど、これは今後のためにも童貞諸君は目を皿のようにして、噛みしめながら鑑賞すべき映画であることに間違いは無いが、まさか今年最後に観た映画が、童貞の成れの果てを描いた作品だなんて…。

それはそうと、この冷酷映画は情熱の国イタリアで『ホビット 思いがけない冒険』をも越える売り上げを叩き出したそうです。イタリアの抱える闇は深いという驚くべき事実が浮き彫りになったところで告知です。まぁ、大した告知じゃないんですが、次回は「2013年 ボンクラ映画ベスト10」を掲載しようと思います。あなたの心に甘いトラウマを残した映画がランクインしているかもしれませんよ!!
頑張りますので、今年ももう少しお付き合い下さい。m( )m