『ゼロ・グラビティ』―もう一人のバーバレラ―

                               

                      

                                         誰もが知っている宇宙。
            真夜中に見上げて恋心を抱いた神秘の無重力地帯が重くのしかかる。

                      
長い映画の歴史の中で宇宙を描いた作品は沢山あったけど、『ゼロ・グラビティ』が偉大なのは無重力をしつこく描いている点だと思う。
無重力なんて夢のある言葉ですよね。ところがどっこい、結論から言えば無重力なんて大嫌い!! 鑑賞後には「宇宙は怖い! 行きたくない!! 重力ありがとう!!」と思わず近所の土を踏みしめたくなる衝動が沸き起こるのが、この映画である。

最近のSF映画は絵空事のくせに内容が難しいものが多くなってきていますが、この「ゼロ・グラ」は作文用紙数行で語れるほどの物凄く単純なお話。宇宙で作業中の宇宙飛行士たちのもとに破壊された人工衛星の残骸がドカドカ降り注ぎ、乗ってきたスペースシャトルは残骸に当て逃げされ大破。宇宙に放り出されたライアン博士とコワルスキーは、近くで営業中の宇宙ステーションを目指して移動開始。
道中でライアン博士の宇宙服内の酸素が底をつき、片足を棺桶に突っ込んだようなギリギリな状態でステーションに到着。ライアン博士は貪るように酸素を吸引し、プカプカ浮かびながら窮屈な宇宙服を脱ぎ捨て下着同然の姿をさらけ出し、つかの間の平和を噛みしめる純粋な男性娯楽が映し出されたとき、僕の脳内では『バーバレラ』(68)の無重力ストリップの場面が再生されていた

                      
      ↑こちらが上映中にもかかわらず、脳内で再生されていた『バーバレラ』の無重力ストリップ。何度観てもかわいい。
宇宙でたくましくサバイブする女性たちは皆、下着同然あるいは全裸にならなければならないという先輩SF映画たちが打ち立てた厳しい掟を『ゼロ・グラ』はしっかりと受け継いでいたのだ。無重力って大好き!!

その後、ライアン博士はステーション内で突如として発生した火災や一周回って戻ってきた人工衛星の残骸に再び襲われ、手加減の無い災難が絶え間なく続く展開は『バーバレラ』に似ていると思うのは僕だけでしょうか? 無重力ストリップに災難の連打、ひょっとしたら『ゼロ・グラ』を撮ったアルフォンソ・キュアロン監督は『バーバレラ』を観ていたのかもしれませんよ。
その証拠に『バーバレラ』の主人公も乗ってきた宇宙船が故障して立ち往生していると、知らない子供に石を投げつけられたり、血に飢えたインコの群れに襲われたり、災難まみれになりますからね。まぁ、『ゼロ・グラ』の災難とはレベルは違い過ぎますが(笑)

特筆すべきこととして、映像技術の素晴らしさ。まさか宇宙遊泳や宇宙迷子を映画館で体験できる日が来ようとは…。この先、映像技術はどこまで進歩して、どこへ僕らを導いてくれるんだろう? そんな期待を胸に僕は『バーバレラ』のブルーレイを買って帰宅した。

バーバレラ [Blu-ray]

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『ゼロ・グラ』もいいけど『バーバレラ』もね。大して面白くないけど。