『地獄でなぜ悪い』―俺の映画のためにみんな死ね―

      

     

一つの街で起きた沢山の奇跡と愛と暴力が渦を巻いて世界最強の映画を叩き出す。

自主映画を撮ることでしか自分を表現できない高校生たちで構成された映画撮影集団ファック・ボンバーズ(凄い名前。)
武藤組の組長の武藤大三と極妻のしずえ。
大三としずえとの間に生まれた娘・武藤ミツコは、その愛くるしい姿で子役業界のトップに君臨する人気子役。
その妖精のようなキュートなミツコが乱れ踊る歯磨き粉のCMを目にした地味なボンクラ高校生・橋本公次は、内から湧き出る甘美な恋の味に酔いしれた。
武藤組に敵対する北川会のヤクザ池上純は、その日、死にかけていた。
半分死体と化した純の前に現れたミツコは彼に「男だったら歯を食いしばって立て!!」と新鮮なカツを注入。その瞬間、死を覚悟した孤独な男の中で未知なる何かが芽生えた

ある日、しずえが人殺しをやらかしてブタ箱に放り込まれた。
この日を機に無力なボンクラ、反社会的なロリコン、バカで何かが欠けた人間たちの運命が正面衝突。
その結果、携帯小説やそんじょそこらの少女マンガじゃ辿りつけないような恋と勇気と感動と青春の舞台を作り出し、ボンクラもロリコンもバカもこの瞬間から映画を彩る
メイン・キャストとなって全力で演じ狂い出す。 
これは映画と言う名の地獄だ。いや…これは天国と言う名の映画だ!!

あっと言う間に、約十年の月日が流れた。

しずえがブタ箱から出てくるその日、映画の神様が一夜限りの奇跡を起こそうとしていた。
ミツコが大女優になったと信じ切っているしずえは、面会時に出所したら娘が主演の映画が観たいと大三に語るも彼の顔色は微妙だった。


かつて敵対した北川会は今では池上純が率いる池上組と名を改め、武藤組に対する敵意は凄味を増し、それを上回る勢いで純のミツコに対する想いは膨らみ、その姿はもはやヤクザではなかった。
ミツコは女優になったものの撮影中に男と逃げてしまい、今は武藤組から追われる身。地味なボンクラだった公次は約十年経っても地味なボンクラのままだったが、その日は違った。街中で逃走中のミツコと遭遇したのだ。
テレビの中の小さな妖精が、著しい成長を遂げて大きな妖精となって男の前に舞い降りたのだ。

ミツコと公次は大三の子分たちに捕まり、公次はミツコによって勝手に映画監督に仕立て上げられ、公次は大三から「逃げたら殺す。完成できなかったら殺す。上手くやれなきゃお前を殺す。」と自分の娘を主演に迎えた映画の撮影を強要される。あまりの重圧に公次は大量のかっこいいゲロを撒き散らした

吐き出された大量のゲロがファック・ボンバーズの連絡先を導き出し(文面で見ると意味不明だが、本当にゲロが親切に連絡先を教えてくれたのだ。)、 公次はファック・ボンバーズに「今すぐ映画を撮ってくれ!!」 と命がけの無茶を押しつけるもファック・ボンバーズのリーダー平田はもっと無茶な人間だったので、感動と興奮を通り越して狂気の領域に達した感情を剥き出しにして、池上組への殴り込みを撮影することを提案する。

金儲けなんて二の次、三の次、ただ純粋に世界をアッと言わせるような巨大名作を作り上げるためだけに、命知らずのヤクザと恥知らずのバカどもが片道切符を全力で握りしめ、人生を台無しにして、犬死をさらけ出し、キル・ビル』と『男たちの挽歌』と『俺たちに明日はない』をドッキングさせたような、どう考えたってPG−12じゃ収まり切らないような血の大洪水!! 千切れ飛ぶ手足!!
その美学こそが僕たち(バカ)が観たかった桃源郷なのだ。

                    

                    
 

地獄でなぜ悪い

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