『ハミングバード』


 
 僕らのジェイソン・ステイサムがまたまた帰って来た!! 多くの人がステイサムに対して、スタローンの部下とかアクションでしか自分を表現できない真のB級映画俳優とか、そんな強固なイメージをお持ちの方も居ると思いますが、確かにそうです
ですが『ハミングバード』は彼につきまとうイメージを全部パーにするような大人な味わいを心行くまで堪能できる作品に仕上がっています。
 今回ジェイソンが演じるスミスはアフガニスタンから出戻ってきた帰還兵。彼の心は戦争で壊れてしまった、今は心の傷を埋めるように酒と薬をガブ飲み日々。妻子から離れて、流れ着いたのはロンドンの路地裏に建設されたホームレスの段ボール帝国。定期的にチンピラがカツアゲがやって来るここは彼にとっての第二の戦場だった。ステイサムはシンボルでもあるハゲを封印して伸び放題のベタベタした長髪でいきなり登場します。戦争が及ぼす哀しみを毛髪のみで表現した瞬間です。

 ある晩、チンピラから逃れる最中にぶらりと不法侵入した高級アパート。住人はしばらくの間、帰って来ないこと知ったスミスは勝手に移住開始。突然現れたこの薄汚い訪問者に疑問を抱くお隣さんに対してスミスは堂々と「俺はここに住んでいる奴の恋人だ。」と主張するも、スミスが奪った部屋の住人は男(多分ゲイ)だったために「あのハゲもゲイなのか?」と一線を越えた疑惑が浮上する。
 こうして始まった新生活でスミスは人生の再起を図るため、酒も薬も絶ち、中華料理店でバイトを始めたある夜、店内で騒いで営業妨害を目論む客を殴り倒してしまう。その光景を偶然見ていた中国人マフィアにスカウトされ、スミスはバイトからマフィアの運び屋兼用心棒に。人生の再起を望んだのに、明らかに前より悪くなっている。その姿はもはやスミスではなくただの『トランスポーター』だった。


 


 桁違いの報酬でドンドン潤っていくスミスの経済力。スミスはこの汚いお金でホームレス時代の仲間を支援したり、世話になった修道院のシスターにドレスをプレゼントしてモーションをかけ始めたり、嫁はどうした!?
一応、コンビニで再開するんですけど、高級スーツを着た夫を目にした途端「あんた何なのよ!? こっちは家賃を値切るために家主のチンコ咥えてんのにさ!!」と大爆発。棚に積んであった缶詰をポイポイ投げてくる嫁にそっとお金だけ渡して誤魔化すスミス。
彼は本当に彼女のことを愛しているのか? ひょっとしたら妻と居るのが嫌で戦場に行ったのかもしれません。
 途中から戦争後遺症の設定とか、どーでも良くなってくるんですが、大事なのは人間、歳を重ねていれば消えない罪の1つや2つ背負うようになるということ


文学賞受賞作品のような心に沁みる展開が続くので、筋肉マンが大暴れするだけのアクション映画を期待している方にはオススメできませんが、もしも人生に行き詰っている方がいたら、この映画は観るべきです。男子が生きていくのに必要なもの。勇気と生活費と愛する人。その大切さをステイサムが教えてくれます。
 個人的に許せなかったのはスミスがシスターを写真展に招待するシーンがあるんですが、そこはチンコの写真展だった!! チンコの写真を見たせいが清楚なシスターが突然淫らになるエロ漫画のようなシーンがあるんですが、写真にボカシがかかっていてね。これ日本が勝手にやったことだと思いますが、失礼だよ!!
チンコにボカシをかける資格なんて無いくせに!!


この心に沁みる曲を聴いての通り、本作は筋肉や火力とは無縁な映画です。