『陽なたのアオシグレ』―走れ、ヒナタ―

 

『寫眞館』、『陽なたのアオシグレ』まったく異なる方向性を示すアニメをくっつけて上映する、何ともワガママな構成が自慢の本作。
ところが、二つ合わせても上映時間はたったの40分という省エネ…正直色々と不安になったが、フタを開けてみれば非常に濃厚な内容だったため、まるで長編アニメを観ているような錯覚に陥ってしまったんだ…本当だよ!!

『寫眞館』は、生まれてこのかた凄味の効いた面構えをキープし続ける少女と写真屋の店長を中心に置いて、二人の一生涯を描く渋い大人の物語でね。
素敵なアニメだったんですが、その後に上映された『陽なたのアオシグレ』が物凄く強烈な作品でね。
『アオシグレ』が『寫眞館』で得た感動を粉々に砕いてチリにして、そのチリを更に砕いて……まぁ、つまり全部パーにする程の圧倒的な思春期が、しぶきを上げて描かれていたのだ。

『アオシグレ』は思春期で揺れ動く少年少女の瞳を通して紡ぎ出される、甘くて、時には苦く、そして、やっぱり甘い物語です。
主人公のヒナタは、クラスで1番地味な男の子でね。大好きな同級生の女の子シグレとお近づきになりたくても、彼には声をかける度胸もなければ勇気も無い。
だから彼は後ろの席から彼女の熱い視線を飛ばして妄想に酔いしれていた。妄想の設定はもちろん、大好きなシグレと自分が仲良しと言うド直球な脳内ビジョンに思わず一目気にせず漏れる、はしたない声。時には勝手に彼女をモデルにして絵まで描いてしまう姿は正直かなりキモいけど、他人事とは思えない。(僕にも似たような経験があるからだ。)

ある日、ヒナタはシグレのパンティーをダイナミックに直視してしまう刺激的な事故に遭う。これがきっかけとなって、お互いの距離が自然と縮まっていく。
妄想でしか自分を表現できなかった陰気な少年の心に流れ込む少女の優しさ。あまりの嬉しさにチャック全開で元気よく登校するヒナタ。これこそが思春期の醍醐味!!
ところが、シグレの転校が告げられた日、ヒナタは妄想と共に崩壊する。
冷たい雨の中、去っていくシグレ。何もできない自分に憤りを感じた時、ヒナタの胸の中でくすぶっていた妄想が不死鳥のごとく蘇る。
妄想パワーを爆発させて、シグレの背中を猛追撃するヒナタの姿を見れば、恋愛に疲れた方、「あの時、告白しておけば…」と今もなお幼少期の後悔を引きずって生きている方(僕)。
そんな心が傷だらけの大人たちを優しく癒し、「また恋を初めてみようかな…。」「勇気を出して告白してみようかな…。」そんな前向きな気持ちが増幅され、あなたの足も想い人に向かってダッシュすること間違いなし!!
まぁ、それでも失敗したら…その時はもう一回『アオシグレ』を観て復活すればいいんだから!!

やっぱりね。思春期は掛け替えのない宝物だよ。


『アオシグレ』を世に送りこんだ石田 裕康監督が2009年に手がけた『フミコの告白』。これまた思春期がしぶきを上げて、走り出すステキな物語。