『マン・オブ・スティール』 ―宇宙難民の自分探し編―

                               「力こそが正義である!!」
彼は全能とも言える圧倒的な力でアメリカ国民を危機(ソ連)から救い、導いてきた。
宗教と権力、アメリカという国をストレートに擬人化したスーパーヒーロー、スーパーマンがまたまた帰ってきた!!
色々考えさせられる部分が多い映画だったので、感想文は二部構成としてお届けします。
今回、この神話再生を任された監督は陰気なヒーローたちが束になって大暴れする映画『ウォッチメン』を撮ったザック・スナイダー
更にそこへ、バットマンをただのメンタル面の弱い陰気なヒーローに変えてしまったクリストファー・ノーラン監督が製作にライドオン!!
この二大陰気映画大将が紡ぎ出す新スーパーマンはやっぱり陰気だった。


                               


宇宙のどこかで輝く惑星クリプトン。
高度な文明を誇るクリプトンで誕生する赤ちゃんは皆、冷たい人工子宮の中で生を受ける。
なんと、この惑星ではセックスによる子孫繁栄は御法度なのだ。
しかも人工子宮の中でプカプカ眠る赤ちゃんは、目覚める前からその体に将来就く職業に関する知識を勝手に刷り込まれる、徹底したハイパー英才教育を施されるのだ。
この繁殖方法に疑問を持つ科学者ジョー・エルは妻と体を重ね、掟破りのセックスにより作られた未来に支配されない、自由な将来が約束された子供カル・エルを授かる。
だが、夫婦には授かった命を抱きしめることは許されなかった。クリプトンは今、破滅に向かって進んでいたのだ。ジョーと妻のララは息子とクリプトン人の未来を小さな宇宙船に詰めて、大宇宙に解き放つ。

そして訪れた惑星崩壊。崩れ落ちるクリプトンは宇宙を漂う星屑となって散らばった。


惑星は変わってここは地球のアメリカ・カンザス州。
この田舎町に不思議な力を持つ少年クラーク・ケントはいた。
彼の耳は遥か遠くで起きた音も聴き取り、腕力は物理の法則を無視するほどに強大で、眼はあらゆる物を透視する。透視能力と言えば地球上の健全な男子が最も憧れる能力であるが、クラークの場合、元気に動く内臓や骨まで見えてしまうのだ。まさに地獄。
どんなに努力しても理解されることのない、この巨大な悩みに押し潰されたクラークは一目気にせず発狂し、そんな個人的過ぎる事情を知らない同級生のバカどもはよってたがって内臓剥き出しで彼をコケにした。

クラークの育ての親であるジョナサンとマーサは、息子に「その力は人に知られてはいけない。隠して生きろ。」と厳しい態度で命じる。
両親は息子の力を恐れていたのか? いや、それは違う。
人間は理解できないものを極端に恐れるからだ。ジョナサンとマーサはクラークを「怪物」としてではなく、一人の「人間」として世間に受け入れられることを願っていたのだ。
ある日、これ以上秘密を隠しきれないと確信したジョナサンは、クラークに真実を話す。
「おまえは空から降って来て、私の畑に落ちてきた。その力も、この惑星にやって来たことにも何か意味があるはずだ。その意味を探し出せ。」
常に落ち込んでいるのに、その上、自分の正体はよその世界から来た宇宙人である、という全く気の利かないジョナサンの激励の言葉にクラークの精神の臨界点は突破寸前であった。
クラークは歳を重ねて成長していく過程で、「この力を有効活用すれば、たくさんの人の命が救えるのでは? このまま農家の息子で終わってもいいのか?」 と両親の願いとは真逆でジャスティスな願いを抱くようになり、反抗的な態度を見せ始める。


ある日、物凄く哀しい事件が起きた。この事件がクラークの人生を大きく変え、同時に彼の心に一生消えない傷跡を残すことにもなった。その日をきっかけにクラークは家を出る決意を固める。目的は父の指し示した「意味」を探し出すこと。そして、人のためになりたいという純粋な願いを実現するための旅立ちであった。
いつか、いつか……と夢見て家を飛び出したものの、気づけばクラークは33歳。未だ「意味」は見つけられず、貯金も無ければ、職も無い。それでも彼は足を止めずに歩き続ける。
もう一人の父ジョー・エルの願いである「自由な将来が約束された子供」は悪い意味で果たされたのであった。

地球育ちの宇宙人の自分探しの旅は、まだ始まったばかりなのだ。

このように、この映画の前半はウンザリするほど暗い。人間以上の力を持っているのに、人間以上に悩む無職のスーパーマンなんて僕は観たくなかった。 
余談であるが、スーパーマンの射精の速度はジェット噴射レベルだという。
思春期のクラークがオナニーに目覚め、うっかり射精で実家を吹き飛ばすシーンが描かれていたら、彼の孤独はより深みを増しただろうが、当然、そんなマヌケなシーンはこの映画には無いが、僕はそれが観たかった。

                                      
                                         

                                                      つづく